神様プログラマー


第三章



神大市姫命を回収し、ナルアキのマンションでいつもの様に、リビングに座り込んでふたりは話し始めた。
宝石店店主の自供により、共犯者も全て逮捕された。商店街宝石店連続強盗事件は、だが。

「あんた、何で宝石店の店主が共犯だってわかった?」
「シソさんも、四件目以降は別事件だってことは理解出来てたでしょう?」
「それはな」
「余りに鮮やかすぎると思ったんですよね」
「犯行が、か?」
「はい。侵入手口もそうですが、何のためらいもなくショーウィンドウを割ってますし、本当に堂々としたものだと思いました。四件目、いえ、一件目なのに」
「初めての犯行には思えなかった、って?」
「高級宝石店をやった犯人はわかりませんが、この犯人は初犯です。なのに小さいとはいえ、まるで店内に馴染んでいるかのようなすっきりとした迷いのない足跡しか残っていませんでした」

大葉は捜査資料の足跡を思い返す。ほんの数時間前にナルアキと共に見直したそれはすぐに頭に浮かんだ。
言われてみれば、そんな気がする。

「ちょっと待て、自供前に初犯だって、あんた判断してたのか」
「だって、お粗末ですよ。男物の靴を履いていればわからないと思うなんて、場数を踏んだ強盗なら有り得ない発想です」
「だとしても半分勘みたいなもんだ」
「そうですかね?まぁ、それはいいです。と、すれば店主が共犯ではないか、と思ったんです。売れ残っている宝石を根こそぎ持って行ってもらって、」
「保険金を取る」

大葉が言葉の端を繋いだ。
ナルアキが満足げに笑った。

「そうです。金を山分けして、宝石は返してもらい海外経由辺りで売りさばいたんでしょう」
「犯行が続いたのは、あの店主が話を広げたってとこか」
「そうでしょうね。あの規模の宝石店ならどこも境遇は同じでしょうから」

大葉は傍らに立つ神大市姫命に目をやった。
愛らしい外見をして、絶大な効果を見せてくれたわけだ。

「それで、商売の神様を怒らせるに余りある、か」
「商売人がこんな嘗めた真似してたんじゃねぇ、市姫」

ナルアキが話を向けると神大市姫命はこっくりと頷いた。

『思いっきり脅してやりましたわ』

くすくすとナルアキが笑う。悪戯な子供のように、楽しそうに。

「それで、どうしましょうか?」
「どうって?」
「高級宝石店の方ですよ」
「見通しは?」
「いえ、なくはないって言うか、全然ないって言うか・・・」
「どっちだよ!」

逮捕された犯人たちはそちらとの繋がりを否定した。
ナルアキは立てた膝に額を埋めた。どうやら顔を伏せるのは彼が考え事をする時の癖らしかった。

「専門外ですよ。やっぱり」
「は?」

ぱ、とナルアキが顔を上げた。その顔半分を覆い隠す前髪が揺れる。

「捜査班の出方を待ちましょう。これ以上、動きようがないかもしれないじゃないですか」
「海外逃亡」
「流石、鋭い」
「億単位で稼いでるんだ。その線は濃いだろうな」

ナルアキが立ち上がった。
白い肌に細い身体に猫背。酷く不健康に見える。

「それじゃ、何かわかったら連絡くださいね」