三
ふたりは四件目の現場近くのバーに入った。
今しがた、四件目の現場に神大市姫命を仕掛けて来たところだった。
宝石店が見える窓際の席についたが、店内から外を見るのは窓の反射が邪魔で少々厄介だった。
飲酒するわけにはいかないので、大葉はウーロン茶を、ナルアキはスイカミルクのオーダーを出した。
「なんだよ、スイカミルクって・・・」
「イチゴミルクのスイカ版じゃないですか?」
「変なもん好きなんだな、あんた」
「よくわからないので頼んだんですよ」
「その無駄な好奇心はどっから来るんだ・・・」
ナルアキは席につくなり、ペーパーナプキンに大葉から借りたボールペンで何やら書き始めていた。
「何やってんだ、先生」
「こうやって毎回張るのは大変ですし、都合よく場所に恵まれるとも限りません」
「そうだな」
「ですから、早速ですが改良案を」
ペーパーナプキンに書かれているのは大葉には理解できない記号や数字の羅列。まるで暗号だった。
「神様にはカメラとマイクがついてますが、撮影、録音用です。それをリアルタイムでライブビュー出来るようにすれば監視カメラ的役割も持たせられます。その為には回線が必要ですが、機密事項ですからハッキングが最も怖い所です。そこで、」
ナルアキは新しいペーパーナプキンを出し、わかりやすく図解した。
丸がひとつ。その下にいくつもの丸が線で繋がれる。
「固有のネットワークを構築します。他とは一切、回線をつなぎません。天花をホストとし、天花を通す事で初めてライブカメラを見れるようになります」
「神様同士のネットワーク?」
「まぁ、そうですが、神様たちから天花に繋がっている、というだけです。もしもの場合を考えて、他の神様同士、横には繋ぎません。ホストとなる天花は常に自動で回線を監視します。異常事態が発生すればすぐに察知できますし、万一の事態が発生すれば即刻その回線は切り捨てます」
「なるほどな。ところで」
「はい?」
「美味いのか?スイカミルク」
「・・・薄いですね」
「スイカだからな」
「もっとこう、シェイクっぽい感じなら美味しいかもしれません」
もう一度、なるほどな、と繰り返して大葉はウーロン茶のグラスに口をつけた。
午後九時過ぎ。バーの営業時間としてはまだこれから、という頃。
窓から見ていた宝石店から人が転がり出てきたのが、辛うじて確認できた。
「行くか」
結局、薄いと言っていたスイカミルクのグラスは空になっていた。
ふたりがバーの外に出ると、遠目ではあったが明らかに怯えた宝石店の店主がいた。すぐ傍に、呆然と立ち尽くす女性がいる。
「店主、だよな」
「はい。あれがターゲットです」
大葉には意味が分からなかった。
宝石店の店内に、神大市姫命の姿が見える。
「市姫には女性が来たら作動するように指示を出して、スリープモードにしてありました」
「んな、大雑把な・・・」
「良かったですよ。昼間に堂々と売りに来てたらどうしようかと思いました」
「おい、先生」
「早く通報してください。店主の様子がおかしいとでも言えば、充分です」
仕方なく、大葉は一一○をコールした。
ナルアキは宝石店の窓から目のあった神大市姫命に、口パクで上出来、と賛辞の言葉を贈った。