極彩


てんしさん、おなまえはなんていうの?
しにがみさん、おなまえはなんていうの?
どうしていっしょなの?

てんしさんと、しにがみさんは

いっしょだとだめなんだよ。


極彩−pastel color−


眩しいと思った。
満面の笑顔や、長い髪を結い上げた姿を。
少し浮かぶその足元に纏わりつく奴等に向ける柔らかい表情。
どれをとってもただ眩しい限りで。

自分と正反対の存在を思い知った。



セルバが用事がある、と言って出掛けてから数時間後。
村へ戻ったその目に入ったのは酷く眩しい光景だった。
ジュリアが子供たちと遊んでいたのだ。
長い髪を高く結い上げているが、長すぎる為どちらにしろ邪魔そうに見える。
小さな子供たちと楽しそうにはしゃぐ無邪気な笑顔。
声を掛けることさえ、セルバには躊躇われるほどだった。

「セルバ・・・っ!」

セルバが我に返ると自分に向かって大きく手を振るジュリアの姿があった。
それに答えるでもなくただ見ているとジュリアの方から近寄ってくる。

「おかえりなさい」

子供たちに向けていたのと同じ笑顔でセルバを迎えた。

「・・・・ただいま・・・」

セルバは無愛想にしか答えられない。
それでもいつもジュリアは笑った。
この短い付き合いでセルバを理解しつつあるジュリアは、答えを得られただけで酷く幸せそうな顔をする。


「今ね、子供たちとかくれんぼしてるんですよ」
「・・・かく・・・」
「どーしてもひとりだけ見つからなくって」

真剣な顔をして、どこに隠れちゃったんでしょうねぇ、と言う姿が少し可笑しい。

「上から探せば良いだろう。羽があるんだ」
「駄目ですよ!そんなの反則じやないですか。かくれんぼの道理に反しますっ!」

セルバにしてみれば使えるものなら使えばいい、というだけ。
だが、真剣にこの遊びをしているジュリアは反則はしない、というのが前提である。

いつになく強い剣幕と真剣な顔で主張するジュリアに思わず笑みを零しながらセルバはフェストの店へと戻って行った。


「朝からずーっとなんですよ」

店に入るなり開口一番にフェストが指定席から放ったのは迎えの挨拶ですらなかった。

「・・・?」
「ジュリアさんですよ。朝からずーっと子供たちに引っ張りダコでしてね」
「そうか」
「セルバ君が初めていらした時はそんな事もありませんでしたけど、
 やっぱりジュリアさんは子供たちに人気ですねぇ。そんな感じしますもんね。優しげですし」
「・・・・そうだな。」
「そろそろお疲れだと思うんですけどねぇ」
「嫌なら拒否も出来るだろう。本人がやっているなら口出しする事も無い」
「そうでしょうかね」
「?」
「先ほども言いましたように、あの方は優しいですから」
「だから、なんだ」
「・・・いえ、悩みなさい」

フェストが微笑した。
セルバはそういった事に疎い。他人の感情をうまく理解できない。
こういう時、フェストはいつもセルバに悩みなさい、と言う。
解らないなら悩め、と。ジュリアとの出会いは彼にとってその課題を真剣にこなす要因となったらしい。
フェストは楽しそうに、笑った。


「おかえり、ボダ」
「ただいま戻りました」

戸口に卵の入った籠を抱えたアングルボダがいた。
付近の家の農業を手伝いに行って戻ってきたのだ。

「見つかったようですよ、最後の子」
「おや、ではかくれんぼも終わりですか」
「えぇ、今度は脱走した鶏を追いかけてます」

フェストが可笑しそうに声を立てて笑う。
その横でソファに着き黙々と悩む死神。
一見、同じ空間とは思えないような光景を横目にアングルボダは卵を抱えて炊事場へと入って行った。


「おかえ・・・り・・・」

流石のフェストも絶句した。
戻ってきたジュリアは泥だらけだった。
髪をとめていた紐は解けてしまったらしく長い髪がいつものように落ちてしまっている。
白い服は泥で汚れ、頬も同じような状態だ。
所々ある傷は木の枝や葉で切ったのだろう。
目を丸くしてその姿を見る三人にジュリアはにへら、と苦笑いをした。

「人気者は大変ですねぇ・・・」



「すみません」

湯に浸かり、泥を落とした髪を拭きながらジュリアが出てきた。
アングルボダの女物の服がよく似合う。恐らくフェストの趣味と思われるレースがついた服だ。
ジュリアは無性だがラインが細く、顔も女性的な為全くと言って良いほど違和感がない。

「すみません、服お借りしちゃって」
「いえいえ、よくお似合いですよ」

元々、気が合うのかこのふたりの会話する姿は背景に花さえ見えるようだ。

「良いものですよねぇ。可愛い子が揃ってるのって」
「・・・・・」
「潤いがあるといいますか、爽やかですよねぇ」
「そうか」
「かわいげないですねぇ、君は」


それは優しい

愚かにも愛しい

叶うならば守りたかった風景

嗚呼、それでも


「・・・それでも僕は、歩みを止める事は出来ない・・・」


END