極彩


みっつ、理由がありました

ひとつは捨てるため

ひとつは知るため

ひとつは、手に入れるため


極彩−calm color−


翌朝、目を覚ますと、そこには誰もいなかった。
代わりに外がやたらと騒がしく、ジュリアはガラス戸を開けて声のするほうを覘いた。

「長さが違うじゃないですか!君は切るしか出来ないんですか?!」
「なにを今更」

似合わないフェストの大声が聞こえて、ジュリアは井戸の傍へ寄った。

「あ、おはよ・・・まだ印つけてないのに切らないで下さい!!」
「・・・」

フェストはセルバと共に何か作ろうとしているらしかった。
そこら中に散らばった材木が努力の跡を物語っている。

「なにしてるんです?」
「いえね、ベッドを作っているんですよ。貴方が寝る場所がいるでしょう?」
「私、すぐにも出て行こうと・・・」
「そんな事言わないで下さいよ。これまでの努力を無駄にするつもりですか?」
「あ、いえ・・・、そうですよね。すいません」
「よろしければ、しばらくここにいてセルバ君の遊び相手になってあげてください」

フェストの冗談に、セルバは只管不機嫌そうな、憮然とした顔をして見せた。

「何か、手伝いましょうか?」
「いらない。邪魔になる」

きっぱりと断ったセルバに、君がそれを言いますか!とフェストが突っ込む。

「ボダが食事の支度をしてますから、手伝ってあげてください。もう昼近いですから、朝昼兼用で良いでしょう?」
「はい。あ、すいません。こんな時間まで・・・」
「いいえ、病み上がりなんですから。調理場はあのカーテンのところですよ」

外から調理場を仕切るのは赤いカーテン1枚だ。
冬はさぞ、風が冷たいだろう。

ジュリアがカーテンを潜ると月のような色の髪と目をした女性が振り返る。
この色を金、というのだと昨日、セルバから教わった。
彼女はアングルボダ。フェストの妻であり、人形師たる彼の最高傑作の生き人形だ。
滑らかな動きや、柔らかな肌はとても人形とは思えない。しかし、衣類に隠されない首や指に見える関節は人形のそれだ。

「おはようございます。よろしかったら、お手伝いお願いできます?」
「はい!」


直後、ガシャン、という壮大な破壊音と天使の声に、外にいた人形師と死神は顔を見合わせた。

END