ある日、天界に巨大な花が咲きました。
茎と葉は透き通ったエバーグリーンに輝き
大輪の花は光を返す白に紫を乗せたような。
それは
ある天使の目にとても美しいものとして映ったのです。
極彩−first color−
「良いんですかぁ?100年ぶりの開戦だって死神は沸き立ってますよ?」
男は背後のソファにかける青年に声をかけた。
視線は手元に向いたまま、その背中で青年の気配を見る。
「興味が無い」
「またぁ。君は何にも興味が無いんですか?」
「無い」
まったく、と男は溜息を吐いた。
まるで反抗期の息子を持った父親のような心境だ。
これ以上うるさく構われるのはごめんだとばかりに青年は巨大な鎌を肩に立ち上がった。
出口のガラス戸を開けると外で洗濯をしていた女が振り返る。
「お出かけですか?夕飯までには戻ってくださいね」
一度、大きく溜息を吐いて青年は足を進めた。
「何にも興味が無い、じゃあ・・・困るんですけどね」
男は手元の人形の頭を眺めながら、ぽつりと呟いた。
今日は厄日だ。
足元の塊を見つけた瞬間の青年の感想はそれだけだった。
長く美しいブルーシルバーの髪。
白い翼。白い衣。その袖から見える腕はまた透けるように白い。
厄介事はごめんだ、と思いつつも見つけてしまった物を放ってはおけない。
尤も、それは天使で自分は死神。ここで殺してしまっても何ら構わない筈であったのに青年はそうはしなかった。
興味が無かったからだ。天使にも、死神にも。
「おい」
声をかけると共に肩を揺すったがその行き倒れの天使はぴくりとも動かない。
うつ伏せの体を表に返すとその顔が現れる。
女と見紛う程に愛らしい顔をしている。しかし、胸に膨らみはない。
「おい」
もう一度、声をかけたがやはり動かない。
死臭はしない。生きてはいる。曲がりなりにも死神なのだ。生者と死者を間違えはしない。
今日は厄日だ、と先程も思った事をもう一度思う。
仕方なく天使を抱き上げて、その羽のような軽さに驚愕した。
END